リーチザクラウン産駒のキョウヘイ(8番人気・高倉稜騎手騎乗)が、雨の中最後方から差しきり、シンザン記念(GⅢ 京都・芝1600m )を制覇。
しかし、改めてその血統を見てみたら、なんかすごいことになっていました。
キョウヘイのプロフィール
生年月日 2014年4月22日
調教師 宮本博 (栗東)
馬主 瀬谷隆雄
生産者 本桐牧場
産地 新ひだか町
通算成績 6戦2勝 [2-1-0-3]
主な勝鞍 シンザン記念
※戦績は2017年1月8日現在
特筆すべきはその血統で、父リーチザクラウン、母ショウナンアローネ(その父ダンスインザダーク)で、サンデーサイレンスの3×3という超近親配合だったのです(25%同血)
5代血統表(net.keiba.comより)
奇跡の血量と呼ばれる4×3のインブリード
サラブレッドをはじめ、牛などの家畜や犬・猫といった愛玩動物の近親交配のことをインブリードと呼びます。
特にサラブレッドの世界では日常的に行われており、祖先である名馬の血を掛け合わせることで、その馬が持っていた「スピード」「勝負根性」などの秀でた力を仔に伝える狙いがあります。
そしてよく行われるのが、三代前の祖先と四代前の祖先が同じ馬になる4×3(もしくは3×4)の配合です。
競走馬の血量のうち18.75%が同じ血の構成となるこの配合は「奇跡の血量」と呼ばれ、これまでに数多くの名馬を輩出してきました。
しかし、血が濃いゆえのリスクも起こります。
こういったいわゆる「近親交配」は、抜きん出た強さを誇る馬を生み出す可能性を上げる反面、血が濃すぎるがゆえに虚弱体質や気性難を生む原因ともされている。「18.75%」という数字は、競走馬を生み出す上で“限界”の数字というのが一般的だ。
※日刊サイゾー「存在自体が奇跡」常識外の“近親交配”で生まれた怪物・エルコンドルパサーの強さと「伝説のG2」より引用
インブリードによる血の影響が出るのは5代前までとされており、あまりに近親するぎるとリスクの方が高くなってしまいます。
なので、引用文にあるように「18.75%」までの血量、すなわち4×3(3×4)までのインブリードが一般的とされています。
3×3以上のインブリードでG1を勝った日本馬
シンコウキング (ノーザンダンサー2×3)
フサイチコンコルド (ノーザンダンサー3×3)
エルコンドルパサー (Special、Lisadell 4× 4 ×3 )
ダイシンフブキ(Nasrullah、Rivaz 3× 3 ×4 )
などの馬がいます。
世界的に見ると、新馬戦を勝ったあと、2戦目でイギリスダービーを制し、「神の馬」と呼ばれたラムラタ(ノーザンダンサー2×3)や、
かなり昔の馬ですが、1946年にフランスで生産されたコロネーション(トウルビヨン2×2)などが有名です。
てか、コロネーションは父の父、母の父が同じで50%同血という無茶苦茶な配合で、なんか嫌なことでもあったんかと生産者につっこみをれたくなりますが、同馬は凱旋門賞を制しています。
(しかしながら、こういった事例はやはり例外的なものです)。
サンデーサイレンスの3×3
あらためてキョウヘイの5代血統表を見てみましょう。
下記のインブリードが発生しています。
サンデーサイレンス 3×3
ヘイルトゥリーズン 5×5×5
ニジンスキー 5×4
サンデーサイレンス3×3 もさることながら、
ヘイルトゥリーズン 5×5×5 、ニジンスキー 5×4
ってとこが、いかにも
考え抜かれた配合 っぽいですね。
血統の専門家でもないので詳しいことは言及しませんが、個人的には二列にスペシャルウィークとダンスインザダークが並んでいるのが感慨深いです。
両馬はともに大種牡馬サンデーサイレンスの初期の頃のG1馬で、僕が大学生だった頃に大活躍していました。
競馬をされない方のために記しておくと、サンデーサイレンスという馬はアメリカから日本に輸入された種牡馬で、その子どもたちが今まででは考えられないレベルで大活躍し、これまでの競馬界を一新させるくらいの大旋風を巻き起こしました。
それゆえに、母親となる牝馬はもちろん、活躍した男馬の直仔たちも軒並み種牡馬として繋養されるようになり、偉大な父の血を引き継いだディープインパクトをはじめとするその直系の種牡馬たちが今も大活躍しています。
しかし、同一の種牡馬の血が増えると周りが同血ばかりになってしまい、交配の対象となる牝馬がみつからなくなるという弊害も出てきます。
(このへんの話については、『血のジレンマ―サンデーサイレンスの憂鬱』という本に詳しく書かれていますので、興味の方はあたってみてください)。
そこでルーラーシップなど、“サンデーの血”が入っていない種牡馬が重宝されるわけです。
一方で、リーチザクラウンがそうであるようにサンデーサイレンスも孫世代の種牡馬も出てきており(ディープインパクト産駒のディープブリランテやネオユニヴァース産駒のヴィクトワールピサなど)、「サンデーサイレンスの3×4」とかのインブリードもそう遠くない日に実現されそうですが、まさかの3×3の活躍場が出てくるとは驚きです。
ちなみに、よく見ると同じく今日のシンザン記念に出走していたトラスト(父スクリーンヒーロー、母グローリーサンディ)もサンデーサイレンスの3×3でした。
こちらも ヘイルトゥリーズン 5×5×5 、ノーザンダンサー5×5×5 という濃い血が固められております。
3×3って人間でいうと従姉弟と結婚するようなものなので、やはり危険というかリスクもけっこう高いと思いますが、類例がないくらいの勢いでサンデーの血が飽和している現在のサラブレッド生産界において、「サンデーサイレンス3×3」は、今後そこそこ出てくるのかもしれませんね。
G1のヴィクトリアマイルなどを勝ったホエールキャプチャの繁殖初年度にオルフェーブルを付けたみたいで、「サンデーサイレンス3×3」が発生しています。
同馬は、昨年のセレクトセールで
マイネルの総帥・岡田繁幸さんが1億7000万円で落札 されました。
しかし、独自の相馬眼で“安馬”を走らせるのが岡田イズムだったと思うのですが、何があったんでしょう。
その前に、この狂気のような、それでいてちょっとワクワクする血統の馬がどんな走りをするのか、今から楽しみです。ちなみに、トラストのオーナーも岡田総帥ですね。
キョウヘイの配合を考えた人がいた
しかし、なんでまたこんな配合になったんだろうかと思って、キョウヘイの兄弟馬を見てみると、
その父はソングオブウインド、プリサイスエンド、アグネスデジタル、スタチューオブリバティ 、エンパイアメーカー、エイシンフラッシュ と、当然のように 非サンデー系の種牡馬ばか りが並んでいます。
そして、成績も軒並み芳しくはありません。
そこで生産者の人がヤケクソになって「サンデーサイレンス3×3」という近親配合に踏み切ったのかなとか勝手なことを思ったりしましたが、どうやらそうではないみたいです。
検索したら偶然ヒットしたのですが、青木義明さんという血統評論家の方が配合を考えられたみたいです。
小生の配合馬キョウヘイ(牡2歳、父リーチザクラウン、母ショウナンアネーロ、母の父ダンスインザダーク)は先週の小倉2歳Sで惜しくも4着。スタートしてハミ受けが悪く後方からの競馬となり、また直線でも前が開かずに大外に出して追い込んだものの2着馬に半馬身、3着馬にクビ差で敗れた。単勝10.0倍の5番人気だったからこの程度のものとも言えようが、配合した立場で言えばこの馬は1400前後ならば重賞級の能力を秘めている。精神的にまだ子供なので成長が楽しみだ。
ご自身のブログでこのように述べられているので、たぶん間違いないでしょう。
生産者の方から相談を受け、繁殖牝馬にもっとも良いと思われる配合をアドバイスされたみたいですね。
参考までにブログに掲載した5代血統表からも分かるように、キョウヘイはサンデーサイレンス3×3という強いインブリード(近親交配)を持つ。さらにヘイルトゥリーズンの継続に、ニジンスキー5×4のクロスが5代内に存在する。母のショウナンアネーロにはグロースターク=ヒズマジェスティのリボー系の同血馬クロス5×4があり、底力を付与する。
配合の意図としては上記のように語られています。配合診断したからといって毎回このようにうまくいくとは限りませんが、「1400前後ならば重賞級の能力を秘めている」と自身で語られているようにさっそくマイルの重賞勝ったんだから、みごとなもんですね。
今回の後方一気の末足がフロックなのか実力なのか、キョウヘイの次走が楽しみです。