東京・高円寺の特殊レコード店「円盤」店主、田口史人さんによるレコード寄席が大阪・北堀江にあるアオツキ書房で昨日行われました。
同店でのレコード寄席は今回で14回目だそうで、この日のテーマは「野球」でした。
円盤・田口史人のレコード寄席とは?
日本屈指の珍盤・奇盤レコードコレクターでもある田口史人氏が、毎回テーマにあわせて豊富なコレクションのなかから名作、迷作をセレクトし、レコードをかけては解説や感想を述べるというイベント。
一般的な歌手やアーティストのレコードはもちろん、暮らしに根づいたレコード(町内放送、学校の卒業記念など)まで、というか田口さんどちらかというと後者に比重をおかれているようで、詳しくは昨年上梓された『暮らしとレコード』(夏葉社)に当たってみてください。
1年くらい前にタモリ倶楽部にも出演されています。
https://www.youtube.com/watch?v=devMMsCsUbg
レコード寄席 | 野球編
というわけで、この日はレコード寄席の野球編です。
昭和を代表する国民的スポーツ、野球。昭和のお茶の間を席巻した大娯楽なだけに、便乗レコード数知れず。チーム応援歌はもちろん、有名選手は歌が得意だろうがなんだろうが歌わされ、ブロマイド型レコードから、実況中継もの、さらには高校野球、草野球と、そのレコードの幅はとても広い。野球レコ専門のコレクターもいるくらいの人気ジャンル。当方、野球はサッパリですが(笑)レコードは大好きなんで、レコの側から野球に迫ります?!スポーツ・シリーズ第一弾!
※お店の告知より
プロ野球関連から高校野球、リトルリーグ、野球マンガ、野球用具の販促ソノシートまで、いろんな音源がかけられました。
やはりプロ野球関連が一番豊富で、選手本人が歌うものから球団歌、応援歌、ファンがつくったもので多岐にわたる感じで、それ以外にも大記録の達成や名選手の引退など、エポックな出来事(王貞治の756号達成、長嶋茂雄の引退など)が起こったときの実況を収めたレコードも紹介されました。
当時の人はそれを何度も何度も聴いたらしいのですが、そんな同じ実況を音だけで何回も聴いてどうすんねんって話ですが、そこがまさに田口さんの「暮らしのレコード」的な話で、70年代前半くらいまでは、いわゆる楽曲的なものだけではなく、それ以外のレコードを家で何度も聴くということが、当たり前のようになされていたみたいです。
例えば、長嶋茂雄の有名な引退セレモニーのスピーチなども、今だったら気が向いたらYoutubeで簡単に出てきますし、現代を生きる我々にはなかなか実感をともなって理解しにくいところではあります。
けど、そういったものがない当時の人にとっては、各人にとって“大切な瞬間”が刻まれた放送であったり、実況であったりが、手元にあって、いつでも触れられるという意味合いにおいて、レコードというものが貴重というか、生活に根づいたものになっていたのかもしれません。
野球レコードの名曲
【色鉛筆/嗚呼!深紅の旗東京に還る 】
【甦れ! 俺の西鉄ライオンズ】
この2曲は個人的にも思い入れがあって、というか以前から知っていて音源も持っていたりするのですが、その音源の出所はスタディストで、ヒゲの未亡人でもおなじみの岸野雄一さんです。
もう10年以上前の話ですが、東京在住の僕の友だちがある音楽イベントに行き、岸野雄一さんが売っていたCDを購入。
家に帰ってケースを空けたら中身が入っていなくて、そのことを知らせるメールを送ったら、お詫びの言葉とともにくだんのCDと、プラスして岸野さんが編集したCD-Rが送られてきたそうで、それを聴いた友だちが「好きそうな歌がいっぱいだからダビングして送るね!」といってくれ、送ってくれたというのが経緯なのですが、両曲とも好きなんですが特に「嗚呼!深紅の旗東京に還る」はほんといい曲ですね。
あと、無駄に熱かったこの曲
リトルリーグの歌らしいのですが、ブラスはじめ全体的に熱量が高く、リズム隊の演奏がすばらしい(特にドラムが熱い)。
あとは黒い霧事件でプロ野球を永久追放された森安敏明の歌もなんか面白かった。追放されてやさぐれて、夜の街でうだつがあがらなくなっているときに、支えてくれた人たちがレコード会社をつくって、森安に今の思いのたけを歌わせた歌だそうです(Youtubuになかった)
改めてこの森安敏明のことを調べてみると、
尾崎行雄が「村山や江夏よりもだんぜん速かった」と評し、山崎裕之が「史上最速」と断言
していたそうで、かなりの豪腕だったみたいですね。
ファンがつくった野球ソングほか
このジャンルが豊富なのが「野球編」の面白いところと田口さんもおっしゃっていましたが、ファンの自主制作版などがいくつか紹介されました。
あとヤジ合戦のレコードとか。
あと、曲名がわからなくて発見できなかったけど、横浜球場近くに住むバーかなんかで働く人がつくった横浜球場の歌がけっこう良かった。
阪神ファンのおっさんが家族とつくった歌とかは、歌い方に癖がありすぎてなんかえらいことになっていたりしましたが、この横浜スタジアムの歌は、歌も曲なかなかいい感じ。
歌詞は中継風に試合のことが歌われますが(張本が流し打ち、長崎がそれを見送り、みたいな)、それと並行して、男女の関係の終わりみたいなことも織り交ぜながら歌われ、単なる野球ソングというより、歌謡曲めいた哀愁も漂わせます。しかし、それにしては「平松のシュートがどうのこうの」とかディティールが詳細すぎて、そこがちょっと笑えます。
あと、同傾向の歌として、大津びわ子の「阪神の泣いた夜」も紹介させられ、企画的にパロディというか、ちょっと適当な感じに企画されたレコードだと思われますが、田口さんもおっしゃっていたように、これがなかなか泣かせるいい曲でした(ネット上に音源発見できず)
野球アニメの名曲
けっこういろいろありますが、寄席ではいちいちかけてられないので、水島新司の「あぁ野球狂」がかけられました。
野球のアニソンだと、個人的にキャプテンですかね。寄席でかけられたわけじゃないですけど。
あと有名どころでは巨人の星とかタッチとかいろいろあるけど、「緑山高校」の「遅れてきた勇者たち」もけっこう好きでした。
ただ、これ特に歌詞が野球マンガしてなかったりはするんですけど。
アーティストの野球ソング
今回のレコード寄席での演目と関係はありませんが、バンド、アーティストがつくった野球ソングを見繕ってみようと思ったのですが、あんまりなかったので、二つだけ紹介。
ホフディラン/【暗黒から】頑張って阪神タイガース【栄光へ】
http://www.nicovideo.jp/watch/sm2104649
ホフディランのファーストアルバムの隠しトラックに入っていた一曲。このアルバムと、二枚目の「Washington,C.D.」はよく聴いてたなあ。ちなみに、上記の曲が発表されたのは1996年で、阪神は暗黒時代まっさかりでした。
電気グルーヴ/密林の猛虎打線
http://www.nicovideo.jp/watch/sm23884581
※電気グルーヴのがリンク切れてたので「KAGAMI ♪ Tiger Track (Tigers Edit) The Percussionz Mix」で。
2000年に発売された『VOXXX』(ヴォックス)に収録されている一曲。上で紹介したヤジ合戦のやつからサンプリングされてますね。
まとめ
今回紹介されたのは数多くある野球レコードのほんのごく一部だけでしたが、その一端に触れただけでもかなり楽しかったです。
あまりにも膨大すぎて、さすがに今から発掘していこうとまでは思いませんが、たまたまにでも見つけたらチェックするようにしたいと思います。