キンコン西野さんが大ヒットしている絵本『えんとつ町のプペル』をインターネット上で無料公開。さっそく炎上し、賛否いろんな意見が飛び交っていますが、今回はこの問題について考えてみたいと思います。
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無料公開にいたった経緯
『えんとつ町のプペル』を読みたいと思った小学生が、「2000円は高い。自分で買えない」という意見に西野さんが反応したことが、無料公開に踏み切る直接的な原因になっているようです。
《自分は『えんとつ町のプペル』を子供にも届けたいのに、たった「お金」という理由で、受けとりたくても受けとれない子がいる。》
双方が求めているのに、『お金』なんかに「ちょっと待った!」をかけられているのです。(中略)
「お金が無い人には見せませーん」ってナンダ?
糞ダセー。
というわけで公開されたわけですが、当然版元やクリエーターに確認は取ったうえでの行動でしょうし(後のブログでご本人も了承をとっていることを語っておられます)、著作権をお持ちのご本人が公開されているので、基本的にはなんの問題もないと思います。
「無料公開したらAmazonランキングが1位になった」という反論について
1月20日の西野さんご本人のブログで、無料公開による炎上騒ぎに対し、下記のような反論を掲載されています。
昨日、私の絵本最新作『えんとつ町のプペル』をインターネット上で無料公開しましたところ、
「安売りするな!」
「クリエイターにお金が回らなくなる!」
「そんなことより西野嫌い!」
と様々な御意見をいただきましたが、この記事のタイトルそのまま、誰でも無料で読めるようにした途端、Amazonの売り上げがグイグイ伸びて、ついに書籍総合ランキングで1位になりました。
真相はよくわかりませんが、個人的に思ったのは、小学生が高くて買えない→そんな状況が「糞ダセー」から無料公開にする、というのが事実であるのであれば、無料公開後に売れようが売れまいが関係ないのではと思いました。
そんなことより、「見られてよかった」という子供たちの声を紹介すればいいのにと思いましたが、「無料にした→すばらしいこと→一冊買いました」は、「安売りするな!」「クリエイターにお金が回らなくなる!」と攻撃してきた人たちへの反証のための材料にはなっていると思いますが、そもそものきっかけである「一番見てほしい小学生が見られていないのを改善する」という話は置いてけぼりになっていると思います。
話題づくり、広告宣伝のひとつの試みとして無料公開されたのであれば、新しい試みのひとつとしていいことだと思うし、結果的に成果も上がっているからよかったと思うんですけど、もし当初からこちらが第一目的であるのであれば「高くて買いえない小学生云々」の話は余計だったんじゃないかと思ったりもします。
(後日のブログを拝見すると、「自分としては建前(綺麗事)も本音(お金=市場貢献)も回収しているつもりなんだけれど」とのことです)
「2000円は高い。自分で買えない」という小学生について
小学生のこの声が、どういったカタチで西野さんに届いたのかしりませんが、もし本人に直接メールとか手紙とか送ってたらちょっとやばいかなと思いました。
確かに小学生にとって2000円の本は高いと思います。
しかしながら、総額10万以上する豪華装丁の文学全集とかじゃないし、高いといっても2000円なんだから、ちょっとがんばったら買えないことはないだろうと思いました。
時期的にお年玉も入ってるだろうし、どうしても欲しいんだったら月々のお小遣いを切り詰めて買うこともできるし、絵本という媒体を考えたら親に懇願すれば買ってもらえる可能性もゼロではないでしょう。
要はどれだけ本気で欲しいと思っているかが重要で、本気でほしかったら2000円くらいだったらなんとかなるはずです。
家庭の事情でそういったことが一切無理といった場合でも、図書館で借りるとか、図書館に入ってなかったらリクエストするとか、そういう知恵が小学生にわかないということであれば、それこそ相談を受けた大人が教えてあげればいいのであって、方策はいろいろあるでしょう。
もし、くだんの小学生が上記のような努力を一切せず、「高くて買えない」という言葉の裏に「タダで見たい」という甘えのようなものがあるとしたら、それが一番危険かなと思いました。
まあ、小学何年生とも書いてないので、努力の部分はひとまずおいとくとして、後者の「タダで見たい」という甘えみたいなものに対して、個人的には危ういものを感じています。
インターネットが生まれたときから当たり前のようにしてある若い世代の人にとっては、基本的に情報はタダで入ってくるものという認識が少なからずあると思います。
それはニュース的なものから音楽、映像などのアート的なものも含めて、あらゆるものが対象です。
YouTubeでたいていのものは見れるし、違法ですがマンガのPDFデータなどもネット上には落ちています。
お金がないからしょうがないとはいえ、若い人たちがそれらを当たり前のように無料で消費してしまうと、それが常態となって、お金を出してCDや本などを買うという行為がバカらしく感じることになると思います(全員とはいいませんが、多くの人が)。
もし、くだんの小学生が「タダでほしい」的な見地から今回の発言をしたのであれば、クリエイターが手がけた制作物でさえもタダでという、ネット上では常態化しつつある上述の考えの萌芽があると思い、危険だなと思ったのでした。
個人的な話をすると、本は絶対に買って読む派です(図書館で借りたり、キンドルとかではなく)。
それは物としての愛着があるというのが一番ですが、その買うという行為の中には作家の方への感謝の気持ちというか、リスペクトする気持ちも含まれています。
と、文章にすると大げさで、実際に購入するときに直接的な知り合いの作家さんでもない限り、そんなことをいちいち考えたりはしませんが、購入するというアクションが結果的にその作家さんを応援することになっていると思うし、だから絶対買えとはいいませんが、なんでもかんでもタダで手に入れようという考えはなくしてもらいたいように思います。
西野さんが「情報の無料化」ということを書かれていて、確かにその通りでその流れは止められないけど、商品や芸術作品そのものまでが無料になっちゃうのは問題かなと思います。
話が変わりますが、子どもとか学生とかお金がそれほどないときに、欲しいものの優先順位をつけて、あれこれ頭を悩ますのは、けっこう楽しかったですけどね。
音楽でいうと、高校のときにいろんな洋楽に出会って、当時情報の発信源は音楽雑誌が中心で、動画でいうとテレビ東京系が金曜か土曜の深夜でやってた(関西では確か京都テレビだった)60~70年代の洋楽を紹介するテレビ番組とかを食い入るように見ていたわけですが(当時はYouTubeみたいな便利ものなかったから。ただ、その分一つひとつの純度は高かったと思います)、そうすると次から次へと聴いてみたい音楽が出てくる。
その全部を大人買いするわけにもいかないし(ビートルズだけは、当時東芝EMIから出ていたフルアルバムセットをローンで買いました)、厳選して1枚1枚買ってましたが、意外とそういうのは楽しいし、大人になって10枚とか一気に買っても聴き方が雑になるけど、当時はほんと買ってきた一枚のアルバムを後生大事に抱えて、熱心に聴いていたのを思い出します。
情報の無料化について
今回の騒動で、西野さんは明坂聡美さんという声優さんと議論を戦わされ、その中で西野さんは
「『えんとつ町のプペル』は″情報は無料だけれど、物質は有料”という点」を強調されています。
つまり、売っている絵本そのものを小学生にプレゼンしているのではなく、あくまで情報としてネットで無料公開しているだけだと。
そして、この「この情報の無料化の波」は止められないと語っており、それは確かにその通りかなと思います。
例えで音楽の話を出されてましたが、ネットで一つの楽曲を丸まるアップしているか、途中までかとかそういうことはひとまず置いとくとして、MVとかが上がっている映像を見て、西野さんがいうようにその音源を買うという人が結果的に出てきて(買わない人は買わない)、ひとつのビジネスモデルとして成り立っているとは思います。
ただ、問題はフルアルバムが丸ごとアップされているケースです。
これはアーティスト側ではなく一般ユーザーの仕業でしょうが、けっこういろいろアップされています。
これを聴いて音源を買う人もいるでしょうけど、MP3に変換して違法にダウンロードしている人も少なくはないでしょう。
今回の『えんとつ町のプペル』は全部を公開しているのでこのケースに当たるとはいいませんが(音楽と絵本ではやはり大きく違って、絵本の場合、西野さんがいうように「情報」として見た結果、物質しての「絵本」がほしくなるというのは比較的起こりやすいと思いますが、音楽の場合目に見えない「音」だけになり、CDだとまだモノとしてのカタチがありますがMP3形式だと完全に音源だけになるので、絵本のようには流れないと思います)、絵本というジャンルに特定したとしても、誰もが自身の作品をネット上ですべてを公開したからといって、今回のように売り上げが向上するとも思いません。
これを言っちゃうと元も子もないけど、有名人である西野さんだからっていうのが一番大きいと思うし(そもそも、無料公開する前から、相対的に見て書籍としてはかなりのベストセラーだったし)、ご本人が望んでいたことかどうかわかんないけど炎上すればするほど話題になって、結果的に絵本も売れると思うから、マーケティングというか広告宣伝的には大成功だったんじゃないでしょうか。
あと、先に買ってた人が怒るんじゃないかという意見について、個人的にはそういう人はそんなに多くはないんじゃないかなと思っています。
無料公開されようがされまいが、買う人は買うし、買わない人は買わないという理論に照らし合わせて考えると、「買う人」はそれなりに思い入れなり、絵本というモノに愛着がある人たちだと思うから、公開されても、それこそ「情報」と「実際の絵本」は違うから、気にはならないと思います。
(もちろん、怒る人はいると思いますが)
トップ画像について
最後にトップ画像についてですが、一応リンクも貼りましたが、『えんとつ町のプペル』を公開されたページから取らせていただきました。
一般的にはちょっとまずいかなとも思ったのですが、西野さんのここ数日のブログの内容を読んで、営利目的や悪用ではなかったら、絵本自体の宣伝にもなるから大丈夫かなと勝手に判断し、利用させていただきました。
ご本人がこのブログを見られることはないかと思いますが、もし関係者の方などが閲覧されて、問題があるようでしたら、お手数をおかけいたしますがご一報いただけますでしょうか。