漫画家の谷口ジローさんがお亡くなりになられたようです。享年69歳(死因は現在のところ発表されていないようです)。『「坊ちゃん」の時代』の感想めいたものを含め、功績を振り返ってみます。
谷口ジローさん・プロフィール
※画像元:wikipedia
『狼少年ケン』などで知られる石川球太のアシスタントとなったのがキャリアの始まりで、1971年に『週刊ヤングコミック』誌上でデビュー。
その後、上村一夫のアシスタントも経験されたようです。
代表作は、原作の関川夏央と組んだ『「坊っちゃん」の時代』(第二回手塚治虫文化賞を受賞)や『孤独のグルメ』(原作:久住昌之)など。
また『歩くひと』や『遥かな町へ』は翻訳されて海外でも出版。
2011年にフランス芸術文化勲章「シュバリエ」を受章するなど、ヨーロッパ圏を中心に高い評価を受けました。
「坊っちゃん」の時代
作品の概要
個人的に一番思い入れのある作品は『「坊っちゃん」の時代』です。
明治三十八年。現代人たる我々が想像するより明治は、はるかに多忙であった。
漱石 夏目金之助、数え年三十九歳。
見通せぬ未来を見ようと身もだえていた──近代日本の青年期を、散り散りに疾駆する群像をいきいきと描く、関川夏央・谷口ジローの黄金コンビが放つ一大傑作。※第1巻 横帯より
第一部 「坊っちゃん」の時代
第二部 秋の舞姫
第三部 かの蒼空に
第四部 明治流星雨
第五部 不機嫌亭漱石
作品は上記の5部構成で、それぞれの章で漱石や鴎外と二葉亭四迷、啄木と金田一京助、幸徳秋水と管野須賀子など、明治の文学者を中心に当時の世相が描かれます。
僕が読んだのは確か大学生の頃で、2000年くらいのことだったと思いますが、原作者でもある関川夏央の文章か何かでこの作品を知ったんだと思います。
で、内容を見てみると明治の文豪の話だということで、文学好きのぼくはすぐに食いついたという感じだったと思います(記憶が曖昧ですみません)。
漱石、鴎外、らいてうがすれ違う
作品は基本的に史実を元にしていますが、当然フィクションも交えられます。
作中、同時代を生きた文豪や政治家、思想家などが交錯するわけですが、その人物が生きた時代、住んでいた場所から「もしかしたら、この二人は出会っていたかもしれない」という想定を導き出し、そういったシーンも描かれるわけですが、それが面白い。
たとえば、第一部の「坊ちゃん」の時代では、雪の日に偶然漱石と鴎外が出会い、立ち話をしていたところへ、「えらい別嬪」が横を通り過ぎる。
それが後の平塚らいてうとなる平塚明子18歳の姿で、当時付き合っていた森田草平の下宿を訪れるシーンが描かれる。
関川夏央が参照した元ネタは山田風太郎
ちなみに、この手法の元ネタは山田風太郎で、原作者の関川夏央がどっかで「この手法を知ったとき、これだ!と思った」みたいなことをどこかで語っておられました(家のどこかにそれが書かれている本か雑誌がありますが、さすがにすぐには出てこない)
関川夏央は『戦中派天才老人・山田風太郎』って本を書いているくらい山田風太郎に心酔しており(てか、今書いてて思ったけど、この本に上記のエピソードが載ってるかも。ちなみに僕も山田風太郎は大好きです。別のところでですが、以前に山田風太郎について書いた記事→http://yondoku.jp/?a=contents&id=21)
山田風太郎自身もこの手法について語っていて、作品(歴史小説)を書く前にまず年表をつくり、登場人物の生没年と住んでいた地域を書く。
すると、年齢的に、場所的に、この有名な歴史的人物二人が出会ったり、すれ違ったりしている可能性がある!ということが見えてきて、そこをフィクションでつなぐ。
実際にはないと思うけど、可能性としてはゼロではなく、その「もしかしたらあったかも」を想像力でつなぐという手法で、これを読んで関川夏央も「これだ!」と思ったというわけです。
たとえば、山田風太郎の明治物の中で、1886年の東京日本橋に生まれた谷崎潤一郎と、1872年東京の幸町(現在の千代田区)に生まれた樋口一葉の子ども時代に二人がすれ違うみたいなシーンが描かれます(といったシーンが出てくる作品があったと記憶していますが、違ってたらごめんなさい)。
これは山田風太郎の忍法帖シリーズなどにもいえることですが、内容自体は荒唐無稽ですが、その舞台設定として史実がきちんと踏まえられているので、単なる絵空事で終わらないというか、もしかしたら、と思わせるところが妙技だと思います。
作中のエッセイも魅力
上で書いた手法も魅力のひとつですが、それにプラス谷口ジローの絵も作品を引き立てます。
そして、単行本では要所要所に関川夏央のエッセイが解説的に入るんですが、これもなかなかいい感じです。
(ぼくが持っているのはオリジナルの旧版で、新装版が同じあしらいなのか確かめていませんが)
谷口さんの新作はもう見られませんが、残されたいい作品がたくさんあるので、ぜひ機会があればふれてみてください。